「劇場都市」研究

◆研究の背景・目的

建物が通り沿いに建ち並び、計画的に道路や公園が配置され、交通機関が整って移動の自由が確保され、人々が集い賑わう場がつくられるなど、物理的な空間が整備されるだけでなく、経済活動や文化活動など様々な活動が営まれて初めて都市になるだろう。都市は人々の生活の舞台である。

では、人々の活動を促すような都市のデザインとは何か。それを考える手がかりとして、舞台芸術活動と劇場周辺の関係、ひいてはそれらが都市の形成にどう影響するのかに着目している。

西欧では、劇場が都市の文化であると同時に、劇場を中心に生活する人々の存在が都市の活力を支えていると考えられている。劇場には、そこを拠点に活動する団体がおり、ハードとソフトが一体化しているためである。一方、日本では、所属団体のない劇場施設、催しものがないときは空き箱になる施設が多い。こうした違いが、文化資源であるはずの劇場が都市において存在感が薄い状況をつくっている。

劇場を中心とする都市の営みがどうつくられていくか、場所と活動がどう関係していくのかを明らかにするためには、劇場で活動が始まる草創期の状況を知らなければならない。そこで、「劇場都市」と呼ばれているが、舞台芸術の発展が20世紀以降と遅く、劇場整備が都市形成と同時期になされてきたニューヨークで、これまた後発であるバレエというコンテンツを題材として、劇場とカンパニーとバレエがどのように育っていくのかをみることで、「劇場都市」の形成過程の一端を明らかにすることが目的である。

◆研究対象

中世イタリアの宮廷で生まれ、フランスで基礎が形成され、ロシアで発展したバレエは、多国籍文化の賜物である。20世紀初頭に、「バレエ・リュス」(ロシア・バレエ)がヨーロッパを中心に全世界で公演したことが、バレエを今日の世界に広めた直接的なきっかけにもなっている。

20世紀初頭のアメリカでは、「バレエ・リュス」出身の亡命ロシア人によりいくつかのカンパニーが設立される。「ニューヨーク・シティ・バレエ」は、「バレエ・リュス」後期の振付家ジョージ・バランシンのカンパニーとして有名だが、バランシンを招聘したアメリカ人リンカーン・カースティンの熱意や努力によるところが大きい。

この「ニューヨーク・シティ・バレエ」設立までの経緯は、カンパニーの紆余曲折を通して、アメリカにバレエが根付くプロセスとみることもでき、どのようにアメリカのバレエがつくられていくかという点で非常に興味深い。

そこで、研究の対象は「ニューヨーク・シティ・バレエ」とし、設立までの15年間のカンパニーとその周辺を取り巻く環境と、設立者カースティンが行ったバレエの普及活動などに着目している。

◆研究発表

『バレエ・カンパニーの成立環境に関する考察-ニューヨーク・シティ・バレエの設立経緯から』

三谷八寿子

日本文化政策学会第6回年次研究大会(2013.3.10)

『都市における舞台芸術拠点形成に関する考察-ニューヨークとバレエの関係から(その1)』

三谷八寿子

2013年度日本建築学会大会(北海道)(2013.8.30)

『都市における舞台芸術拠点形成に関する考察-ニューヨークとバレエの関係から(その2)』

三谷八寿子

2014年度日本建築学会大会(近畿)(2014.9.12)

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三谷は、文化資源の視点から研究しています。
(写真)上:サインボード/下:シティセンター/右上:デイビッドコッチシアター/撮影 三谷




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